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【Vol.006】 June.17.2022
本橋テープのはたらく人たち 第1話
『伝承する人と学ぶ人 前編』

働く姿や仕事への情熱に触れると、ものづくりや会社の実体が見えてくることがあります。「本橋テープのはたらく人たち」は、社員たちの仕事に向き合う姿をお届けすることで、本橋テープのあるがままの姿をお伝えしていこうというものです。

第1話は、製造グループの寡黙な重鎮、加藤豊久さん(67)。先代の社長が会社を設立するタイミングで声をかけた一人であり、以来35年にわたり本橋テープのものづくりを牽引。なかでもテープ製造の要である「織り付け」のスペシャリストとして、定年後も再雇用契約により現役で活躍しています。

「織り付け」とは簡単にいうと、糸を織機に通すまでの下準備。タテ糸・綴じ糸・芯糸などの糸をどのように通すかでテープの組織が決まり、その糸をどのくらいの強さで張るかによって、テープの良し悪しが決まります。多いときで500本超の糸を操るうえ、糸の張り具合(テンション)は職人のさじ加減が決め手。

「不良のテープを“かまぼこ”や“わかめ”なんて表現したりしますけどね、糸のテンションが1本でもおかしいと、真っ直ぐなテープに仕上がりません。テンションを測る機器はありますが、その日の温度や湿度も影響するため、必ずしも規定の数値が正しいとは限らない。35年やっていても、難しいなと思うことがありますよ」と加藤さん。

織機の部品の1つであるチェーンの組み立てや保守にも、加藤さんの腕が光ります。「今は小さな端末があれば電子的に制御できるのでチェーンはいらない時代になってきましたが、アナログの動力の良さっていうのがやっぱりあってね。故障したときに原因がすぐにわかって直せるところがいいんですよ」。複雑怪奇な部品も、加藤さんの手にかかれば簡単に元通り。

そんな加藤さんが今力を注いでいるのが、若手への技術伝承。「教えるときに意識していることは、できるだけ自分の失敗例を交えてわかりやすく伝えること。たとえば、こうしたら失敗したよ、ケガをしそうになったから気をつけるんだよ、といったふうに」。

昔は家族経営の事業主がたくさんいて、技術は家の家宝のようなものだったことから、教え合ったりしないのが慣習だったといいます。そのため、未経験で飛び込んだ加藤さんは相当苦労したのだとか。その経験から、“自分が教える立場になったら、包み隠さず教えよう”と思ったと言います。

加藤さんを師匠と仰ぐのが、40歳以上年の離れた林田さん。未経験で入社し、現在いろいろなことを吸収している最中で、加藤さんの技術に少しでも近づくことが彼女の目標。

「林田さんは製造Gの中で一番若いですけど、いろんなことに挑戦しようとしていて、とても立派。頑張っている姿を見ていますから、弟子ってわけではないですけど(笑)、自分がもっているものはできる限り渡していきたいですね」

次世代への技術伝承に注力する加藤さんですが、じつはまだ挑戦したいことがあると言います。「世界には私がまだ作ったことのないテープが山ほどあります。たとえば、包帯のような伸縮性のあるテープはきっと織り付けが全く違うはずなので、挑戦してみたいですね」

加藤さんを筆頭とする熟練技術者の技がなければ、高品質なテープを安定供給することはできません。そして、挑戦心がなければ、新しいテープは何も生まれなかったのだと、あらためて感じる取材でした。

次回『伝承する人と学ぶ人 後編』では、加藤さんの技術と挑戦心を引き継ぐ林田さんをクローズアップします!